半田広宣 × 砂子岳彦(物理学者)
[2001.06.02]
半田 『光の箱舟』も無事に出版され、今は書店に並んでいます。とりあえずはお疲れさまでした。
砂子 こちらこそお世話になりました。
半田 この号が出る頃には、東京と福岡で出版記念講演会が終わっているので、本についての話を実際に会場で聞く人も多いかと思いますね。今回は『光の箱舟』について、前号であまり取り上げることのできなかった共著者砂子さんの話をお聞きしながら、『光の箱舟』という本の内容について語り合いたいと思います。まずは、個人的な執筆エピソードなどはありましたか?
砂子 とにかく文章先行型でどんどん先に書いちゃったから、エピソードといえるものは特に……。常にコウセンさんに先行してやってたから(笑) かなり余裕はありました。文章が整ってなかったのを直したりとか。
半田 遅れてすいません(笑) 砂子さんの担当部分は2000年の夏くらいにはある程度できあがっていたのですか。
砂子 そうです。
半田 最初に僕が話を持ちかけたのが、ええと、いつ頃だっけ。
砂子 去年の夏に「作ろう」って言われました(笑)
半田 そうか(笑) で、その時に砂子さんはもう上げちゃったわけだ。
砂子 全部ではないですが、90ページ分くらいはありました。
半田 僕が何にも書いていないうちにもうあったと。でもそりゃ速すぎるよ(笑)
砂子 2000年の5月と7月に東京と福岡で講演させて頂きましたが、基本的には発表する前に書くんです。発表した原稿を整える形で原稿を書きました。
半田 なるほど。
砂子 講演ごとにテーマを変えているのですが、そうすると効率がいいですね。講演からもさらに考えてますから、内容もその都度変わってますけど。内容というより主張が加わっていったというか。それから、間違いがあっちゃ話にならないから、絶対に間違いのないように。
半田 大変だね、学者さんは(笑)
砂子 数学ないし物理の言葉でまず書いて、それを一般向けに翻訳をするという手法をとりました。数学というのは本人の勘違いがない限り、訂正の用がないわけです。この骨組みを作っておけば肉付けは後でできますので。
半田 僕の方は、去年の夏に、哲学者の本からテーマを拾ったりしながら書き始めたんです。ハイデガーとか。全体の構想はあって、変わったのは第5章のプラトン立体のところだけです。砂子さんに数学的な不備を指摘されたシュレディンガー・ルーレットを何とか『光の箱舟』にも出したいと思って、数学的な切り口より幾何学的な切り口はないかなって考え出したんですよ。まあ、ここで断っておくと、僕は学者じゃないので最初に花火を打ち上げるタイプですから(笑)
仮説で無謀にも突入していくタイプなんですね。
砂子 シュレディンガー・ルーレットの不備を指摘したというよりも、むしろ今の段階ではシュレディンガー・ルーレットを説明する数学が見つからないというだけで、実はそうなっているかもしれないのだけれども、説明の道具がないんですよね。
半田 確かに『人類が神を見る日』では、シュレディンガー・ルーレットを、観察者を3次元性のなかに入れてから球を回してました。しかしそれでは、ヌースコンストラクションが3次元の球のような解釈をされかねないようになっている。あれが3次元球面と考えた時に、それがグルグル回ってそれぞれが微分で落ちてくるみたいな書き方してたじゃないですか。
まあしかしその嗅覚はひょっとすると正しいかもしれないと。
砂子 それは思います。
半田 ありがとうございます。しかしそれを数学の論理のなかできっちりと定格化していくのは難しいんですね。
砂子 私自身にとって難しいのか、数学界全体にとって難しいのか分かりませんけれども。
半田 今回の本では、プラトン立体についていろいろあったわけです(笑) 基本的に僕が急に第5章をプラトン立体の話で進めようと進路変更したために、僕の中でもよく熟成されていない思考をパソコンに打っていくことになりました。それはこれからいろいろと肉付けを行っていくためのデッサンのようなものだったのですが、その時点で砂子さんからちょっとストップっていうことになって(笑)
砂子 打ち上げられた花火にまずびっくりした(笑) つまり、コウセンさんとの間に埋め難い溝があるのではないかと。いろいろ聞いたところ、考えの違いがあった。結論から言うと、イデアとしてのプラトン立体と単なるプラトン立体の違いということが、分かったんですね。
半田 相互にFAXで図をやりとりして、電話で簡単に説明するという簡単な連係スタイルでは限度がありました(笑) 普通僕らが工作模型で作っているような「プラトン立体」として伝わってしまったんですね。その中でいろいろと8面体とか6面体の話をしたのですが、結局どうゲージ対称性とつながりがあるのかということが、普通の立体のイメージだと当然見えないわけです。
僕は完全にイデアのプラトン立体として話が通じると思い込んでいる。 砂子さんにとっては、"普通の"プラトン立体とゲージ対称性をつなぐとするならばまったく荒唐無稽なロジックになるのは当たり前の話です。普通のプラトン立体というのは3次元性のなかにしかないわけですから。
お互いの主張や批判が何を差しているのかが、締め切り間近に分からなくなってしまったわけで、ここが『光の箱舟』共著をめぐる一番のピンチだったかもしれません。一時、僕は「こりゃ出版にたどりつけるかな」と心配で(笑) 砂子さんも、正規の物理学者として、何とかそこを応援しようと一生懸命考えてくれているのは分かりました。タイムリミットが刻一刻と近づくなかで(笑)
砂子 プラトン立体の仮説を出せないと言うわけじゃなくて、何とかしてコウセンさんが夢を実現することで、しかも共著者として、こちらの立場を変えることなく、作業が実現する道を模索したということは言えます。