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自我は永遠に引き継がれていくものではない。
自我は夜の帳に生きる生き物である。
それは世界を逆さまに見るように運命づけられた闇の生き物である。
今でこそ自我は盲目者オイディプスとなって世界を放浪してはいるが、
この先には必ずや別の展開が待っている。
その未来はピラミッドの番人たるスフィンクスが知っていよう。
「朝は四本足、昼間は二本足、夜は三本足の生き物とは何か」
われわれは今一度、この存在論的なナゾ掛けに答え直す必要がある―。
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わたしの名前はスフィンクス。わたしは、まもなく峠の向こうからやって来る一人の若者に殺される運命にある。予定調和とでも言うのかしら。それはもう決まっていること。だからわたしは彼に逆らうことなく殺されようと思っている。でも、わたしを殺すことによって、彼には辛い過酷な運命が待ち受けていることも事実。いや、彼のみならず、彼に続く子孫のすべてがその残酷な呪いを受け続けることも事実。だから、ここで今、わたしはあなたに大事なことを言い遺しておきたいの。なぜなら、あなたもまた彼の血を引き継いでいる直系の子孫の一人だから。
テーバイという町の外れにある小高い丘の上で、わたしはいつも人間たちの魂の救済に当たっていた。彼らはわたしの魅力に取り憑かれ、いつも喜んでわたしに身を捧げたわ。町の人々の噂ではわたしは醜い恐ろしい魔物とされていたけれど、事実はまるで逆。わたしほど美しい生き物は当時、地上には存在していなかったの。分かるでしょ。美しい者はいつも妬みや嫉みを受け、醜い者たちに蔑まれる運命にあるの。わたしが食い殺したとされる人間たちは、実のところ、自ら喜んでわたしに身を捧げた者たちだったのよ。だって、わたしに食べられれば、わたしの中で彼らは永遠の生を得られるんですもの。あなたには分からないかもしれないけど、わたしのこの容姿は人間の魂の尊厳を保つために神さまから授かった精霊たちの姿を象ったものなの。だけど町の人間たちはそれを決して理解しようとしなかったわ。
わたしの顔を見て。この美しい女の顔は人間が本来、女なる者の性を持った生き物であることを示す証として神さまがわたしに与えてくれたもの。イブがアダムの肋骨から生まれたなんて大ウソもいいとこよ。本当はイブがアダムを生んだの。背中の翼を見て。これは人間の魂を地上から解放する時のために神さまがわたしに与えてくれたもの。胴体が獅子なのは人間が決して誇りを失わないようにやはり神さまがわたしに与えてくれたもの。尻尾が竜なのは、人間がたとえ地を這うようになっても決して希望を失わないようにと、これもやっぱり神がわたしに与えてくれたものなの。ようやく分かった? つまり、わたしは人間の守り神とでもいうべき存在だったの。
しかし、今からここにやってくるあの若者は決してわたしの言うことを信用しないでしょうね。なぜなら、彼はすでにお父様を殺してしまったから。父を殺すというのは神さまを殺すのと同じ。嗚呼、何と恐ろしいこと。でも、それもやはり運命だから仕方ないのかもしれないわ。あの若者は神さまを殺したことによってようやく自分を持つことができたと思い込んでいる。その自信からか今度はわたしも退治してやろうと躍起になっているの。愚かにも彼は自分がこの世で一番偉い存在と思っているのね。彼は気がついていないけど、彼の中で自我はもう絶対的存在なの。自我こそが自分の命。