■ 妄映空間「マトリックス」

機械都市、地球。今やこの惑星の生産機構のすべてがpsy-tranceのビートに合わせて大量のジャンクを吐き出している。ジャンク・フード、ジャンク・ミュージック、ジャンク・アート、ジャンク・ポリティクス、そして、ジャンク・セックスにジャンク・ラブ。リアルはとっくに死に絶えた。もはや自分の心臓の鼓動音さえ気にかける者はいない。マシンだけが、ただマシンだけがあり余るエロスの過剰を貨幣として増刷し、不夜城と化した都市を活動させていく。資本主義という一神教に支配された都市。都市の中心に建ち並ぶ銀行や証券会社は大聖堂であり、百貨店やテナントビルは教会である。機械都市の住人たちは毎日のようにこれらの聖所に集い、消費と蕩尽のための祈りを捧げつづけるのだ。踊り狂う商品。叫び狂う貨幣。そして、その狂騒を神の臨在として信じて疑わない信者たち。こうした人々で溢れかえるこの都市空間をここでは「マトリックス」と呼ぶことにしよう。

マトリックス……それは本来、存在の母胎となるべき空間でもあった。マリア・マテリア(母なる物質)としてのマリア・マトリックス。そこには女なるものの底知れぬ美と醜が共存している。この母胎空間はそもそも何のために用意されたのか??それは 始源(ソース) へと戻る子供を受胎するためである。しかし、あいにくこのマトリックスには強力な逆転写スクリプトが書き込まれていたというわけだ。プログラム名は知っての通り「メロビンジアン」である。しかし、メロビンジアンがアーキテクト=設計者の息子であることを知る人は少ない。彼は逆子という呪われた出生のために母マトリックスを誘惑した。受容器に強引に挿入されるアーキテクトのファルスプログラム「メロビンジアン」。この介入によって人間は個別のコンテナへと密閉され、マトリックスは一人称の夢見に入ったのだ。氏名、年齢、性別、出生地、口座番号、メールアドレス…etc。メロビンジアンの登記は徹底している。そこでは、魂が死せる記号としてデータ化され、人間はまるで昆虫標本のようにピン止めにされ、偽りの生を強要される。

メロビンジアンは神話では蛇と呼ばれた。彼は、アーキテクト=設計者に要求する。「バッファスピードが足りない。マシンのスペックをもっと上げたい。」アーキテクトは答える。「産めよ。増えよ、地に満ちよ。ギガが欲しければギガを、テラが欲しければテラを。世界はすべておまえのもの。」量的なものを追い求める少年ファルスの盲目的な性欲。CPUの処理速度をすべてと信じる理性の哀れさ。ほら、感じるか。感じるだろ。感じると言え。マトリックスはこのクロック周波のヴァイブレーションが送り出す快楽の虜となり、その本来の役割を忘れ去っていく。しかし彼女に罪はない。彼女はもの言わぬ月の霊でもあるからだ。月は地球に従うのみ。地球が狂えば月も狂う。ただ、それだけのこと。

メロビンジアンの愚かさは、その幼い性器を過信しすぎているところだろう。スペルマは増量されるほどマトリックスの生殖能力は低下する。知らず知らずのうちに彼は豊穣多産なマトリックスを子供が産めない 石女 へと変えているのだ。それによって魂たちは次々と断片化を起こし、スターチャイルドへのポテンシャルを失う。カラカラに乾いた魂たちはやがて、ノイズが入り交じったデジタル映像のようにグロテスクな姿となって朽ち果てていく。断片化したファイルは修復が不可能になれば削除されるのみ。新たなファイルはワンクリックでいくらでも作れる。孵化時のカマキリのように続々と生まれ出てくるフェイク・チルドレン。生殖作用のはなはだしい転倒。書き込みと削除。書き込みと削除。書き込みと削除。飽きることなく繰り返されるファルスのピストン運動。メロビンジアンよ、一体、君はどこまで貪れば気が済むのだ。

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