1日目――テッサラクト
オレは一体いつからここに閉じ込められているんだ? 色彩のない、まったりとした均質的な空間。白内障患者の目のように鈍くホワイトアウトしたその空間は、すべてが見渡せるがゆえに何も見えない。あるのはただ「オレ」という音声と、その反響である「オマエ」というカベだけだ。「オレ」と「オマエ」しか存在することを許されない4次元立方体の箱。テッサラクト。
「オマエ」に向かって「オレは……」と言い放つと、「オマエ」も「オレは……」とエコーで返してくる。どうしてオマエは「オマエは……」と返してこないんだ。結果、聞こえてくる音声は、いつもオレは、オレは、オレは、ばかりだ。もういい加減にしてくれ。
オレはオレがオレであることにもう飽き飽きしているし、オマエが「オレ」であることにもウンザリだ。どうして、オマエはオマエでいてくれない。
オマエでいてくれなきゃ。オレはいつも一人ぼっちじゃないか。
この孤独にオレは今まで何度泣き叫んだことか。オレではないものの到来を何度、待ち望んだことか。オレは気がついたらここにいた。それ以来、理由も分からないままずっとここに閉じ込められている。変な話じゃないか。ここ以外の場所があるかどうかさえ知らないのに、ここから出たいと切に願っている。いいか、ここがどこなのかさっぱり分からないにもかかわらず、だ。だから、当然、オレは自分のことをオレとは呼ぶが、オレが誰なのかもさっぱり分からない。
そして挙げ句の果てが、こうしてオレ以外誰もいないオレ帝国を作ってしまったというわけさ。孤独はもうたくさんだ。吐き気がする。――オレはいつものあの頭が割れるような頭痛に襲われ、そのまま部屋の隅に退散した。今日も機械的に眠るしかない。そして、機械的にまた「オレの明日」がやってくる。
2日目――金星の徴
朝起きると、床の中央に五角形状の穴が開いていた。その穴は回転しながら次第に大きくなり床の半分近くまでに達しようとしていた。生まれて初めて見る光景だ。まさか、こんなことが起こるとは思ってもみなかった。ずっと何かが起こるべきだと思ってはいたが、こんなことが起こっていいはずがなかった。これは金星がもたらすあの終末の徴しだ。ルシフェルの徴しが現実化するほど恐いことはない。存在の非-知に対する恐怖から、朝からずっと泣きわめいていたオレは、泣くのにも疲れ果て、思いきって、その穴の縁に近づいてみることにした。
これは地球の内臓だろうか。それとも存在の始源だろうか。恐る恐る穴の中を覗き込むと、ゴォー、ゴォーと音を立てながら、火山のマグマのようなものがぐつぐつと煮えたぎっていた。ところどころに鈍く黒光りする鉱物が交じっており、もの凄い勢いでマグマの流れに翻弄されている。オレはずっと世界の次元上昇を待ち望んでいたのだが、このとき、それは幻想でしかなかったことを悟った。世界は地獄に呑み込まれ跡形もなく破壊される――今まさにオレが見ているのは、存在の屍骸だ。悪魔との戦いに敗れた神々の屍体が、存在の焼却炉の中で焼き葬られようとしているのだ。オレはおもむろにまた吐いた。
神の屍臭が想像以上に臭かったからだ。